舞台の言葉

 舞台の言葉、即ち「劇的文体」は、所謂《いわゆる》、白《せりふ》(台詞)を形造るもので、これは、劇作家の才能を運命的に決定するものである。 普通「対話」と呼ばれる形式は、文芸の凡《あら》ゆる作品中に含まれ得る文学の一技法にすぎないが、これが「劇的対話」となると、そこに一つの約束が生じる。それはつまり、思想が常に感情によつて裏づけられ、その感情が常に一つの心理的|韻律《リズム》となつて流動することである。甲の白が乙の白によつてより活かされてゐることである。「心理的飛躍に伴ふ言葉の暗示的効果」が、最も細密に計画されてゐることである。 これは、「自然な会話」と何も関係はない。この「自然な会話」が、「劇的対話」と混同されたところに、写実劇の大きな病根がある。殊《こと》に日本現代劇の大きな病根がある。「自然な会話」の総てが悪いのではない。「平凡な会話」が「自然なる」が故に佳《よ》しとされたところに、危険がひそんでゐる。「今日は」「いらつしやい。だれかと思つたらあなたですか」「よく雨が降りますな」「ほんとによく降りますな」「みなさんお変りありませんか」「はい、有りがたうございます、お蔭さまでみんなぴんぴんしてゐます。ところで、お宅の方は如何です。さうさう、奥さんがどこかお悪いとかで……」「なあに、大したことはないんですよ。医者は脚気だと云ふんですが、何しろ、あの気性ですから、少しいいと、すぐ不養生をしましてね」「それは御心配ですな。どうも脚気といふやつは……」

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